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「ろくろ首」と聞くと、首がにょろにょろと長く伸びる妖怪を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。ところが、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談(KWAIDAN)』に収められた「ろくろ首(ROKURO-KUBI)」では、首は伸びません。頭が体から離れて、夜の森を飛び回るのです。
この記事では、Project Gutenbergで公開されている『Kwaidan』の英語原文をもとに、「ろくろ首」のあらすじと読みどころを5つのポイントにまとめます。原文の日本語は、この記事での訳です。後半の、ドラマや朗読と一緒に楽しむ読み方は、この記事の提案です。
※物語の結末にふれています。これから読む人は、先に原文や翻訳を読んでからご覧ください。
「ろくろ首」はどんな話か
主人公は侍から僧になった回竜
物語は「五百年近く前」、九州の菊池氏に仕えた侍、磯貝平太左衛門武連(いそがいへいだざえもんたけつら)の紹介から始まります。原文では、永享の乱で手柄を立てたものの、主家が滅びたあとは、ほかの大名に仕えることもできたのに、元の主君への心を守って世を捨て、髪を落として旅の僧になり、「回竜(Kwairyō)」と名乗った、と書かれています。
甲斐の山中で木こりの家に泊まる
回竜は旅の途中、甲斐の国の山で日が暮れ、道ばたで野宿しようとします。そこへ通りかかった木こりが、「このあたりは化け物が出る」と心配し、自分の家に泊まるよう勧めます。家には、木こりのほかに男女4人がいて、回竜を丁寧にもてなします。
夜中に見たのは頭のない体
その夜、のどが渇いた回竜が部屋の戸を開けると、灯りのもとに頭のない体が5つ横たわっていました。血は流れておらず、首は切られたようには見えません。回竜は、ここがろくろ首の家だと気づきます。
「ろくろ首」を読む5つのポイント
1. 首が伸びるのではなく、頭が離れる
この話のろくろ首は、頭が体から離れて飛び回ります。Project Gutenberg版の注には、ろくろ首はふつう、首が長く伸びても体とつながったままの妖怪として考えられている、という説明があります。私たちがよく知る姿とは違うことが、この話の面白さの一つです。
2. 回竜が頼ったのは本に書かれた知恵
回竜は、中国の怪異譚集『捜神記』に、ろくろ首の体を頭のない間に別の場所へ移すと、頭は二度と首につながれない、と書かれていたことを思い出します。そして、主人の体を窓から外へ押し出します。本の知識を使って危機に立ち向かう場面です。
3. 森で聞いた頭たちの会話
回竜が森へ行くと、5つの頭が飛び回りながら虫を食べ、話していました。主人の頭は、回竜を食べようと話しますが、経を読んでいる間は近づけない、とも言います。そのあと、体が動かされたことを知った主人の頭は怒り、回竜に襲いかかります。
4. 袖にかみついたまま離れない頭
回竜は若木を引き抜いて頭たちを打ち払います。主人の頭は何度打たれても向かってきて、ついに回竜の左の袖にかみつき、そのまま息絶えます。けれども歯は袖を離さず、回竜は頭をぶら下げたまま旅を続けることになります。回竜は笑って、これは「みやげ」だ、と考えます。
5. 裁きの場で明かされる正体
信濃の諏訪で、頭をぶら下げた回竜は捕らえられ、裁きにかけられます。役人たちは死罪にしようとしますが、一人の年老いた役人が頭を調べ、うなじに赤い文字があること、首の切り口が刃物で切られたようではないことに気づきます。本に書かれたろくろ首の特徴と一致したことで、回竜の話は本当だとわかります。
5つのポイントの早見表
| ポイント | 場面 | 読みどころ |
|---|---|---|
| 1 頭が離れる | 頭のない5つの体 | よく知るろくろ首とは違う姿 |
| 2 本の知恵 | 『捜神記』の記述 | 体を移すと頭は戻れない |
| 3 頭たちの会話 | 夜の森 | 経を読む間は近づけない |
| 4 袖の頭 | 夜明け前の戦い | 頭を「みやげ」と笑う回竜 |
| 5 裁き | 諏訪の役所 | 赤い文字と切り口が証拠に |
その後の頭はどうなったか
追いはぎとの取り引き
諏訪を出た回竜は、さびしい場所で追いはぎに出会います。追いはぎは、袖にぶら下がった頭を見て驚きますが、人を脅すのに使えると考え、自分の衣と5両で、頭と衣を買い取ります。回竜は、これは人ではなく化け物の頭だ、と伝えたうえで渡します。
追いはぎが頭を山へ返す
追いはぎは、しばらく頭を使って化け物の僧のふりをしていましたが、諏訪の近くで頭の本当の話を知り、ろくろ首の霊のたたりを恐れるようになります。そこで甲斐の山中の家へ頭を返しに行きますが、家にはだれもおらず、体も見つかりません。追いはぎは家の裏の林に頭だけを葬り、墓石を立てて、施餓鬼の供養をしてもらいます。
「ろくろ首の墓」で終わる物語
原文の最後には、その墓石は「ろくろ首の墓」として知られ、少なくとも日本の語り手によれば今でも見ることができる、と書かれています。この話がどこまで本当かを確かめる手がかりは書かれておらず、語り手の言葉として結ばれています。
原文に出てくる日本語の言葉
英語で書かれた原文には、日本語の言葉がローマ字のまま使われています。原文の説明や注をもとに、主な言葉を表にまとめます。
| 原文の言葉 | 意味(原文・注の説明より) |
|---|---|
| koromo | 僧の上衣 |
| Unsui-no-ryokaku | 「雲水の旅客」。旅の僧を指す言葉 |
| Kunshi ayayuki ni chikayorazu | 「君子危うきに近寄らず」。りっぱな人はむやみに危険に近づかない |
| ro | 床に作った小さな炉。浅い四角いくぼみに灰を入れ、炭をおこす |
| aruji | 家の主人。家の人たちが木こりをこう呼んでいる |
| miyagé | 旅から帰ったときに友人や家族に渡す贈り物 |
| torité | 当時の警察にあたる人々 |
| Ségaki | 施餓鬼。追いはぎがろくろ首の霊のために行ってもらった供養 |
「みやげ」の冗談の意味
注では、みやげはふつう、旅先の土地でとれたものだ、と説明されています。化け物の頭を、その土地の「名産」にたとえているところが、回竜の冗談のポイントだと書かれています。
ことわざで木こりを描く
木こりが回竜に泊まるよう勧める場面では、「君子危うきに近寄らず」ということわざが使われています。親切な言葉に見えて、あとから読み返すと別の意味にも感じられる場面です。
場面の流れを整理する
| 順番 | 場所 | できごと |
|---|---|---|
| 1 | 九州 | 侍の磯貝が主家を失い、僧の回竜になる |
| 2 | 甲斐の山中 | 野宿しようとして、木こりの家に招かれる |
| 3 | 木こりの家 | 頭のない5つの体を見つけ、主人の体を外へ出す |
| 4 | 家の裏の林 | 頭たちと戦い、主人の頭が袖にかみついたまま息絶える |
| 5 | 信濃の諏訪 | 捕らえられて裁かれるが、老役人の調べで疑いが晴れる |
| 6 | さびしい道 | 追いはぎに頭と衣を渡す |
| 7 | 甲斐の山中 | 追いはぎが頭を葬り、墓石を立てる |
場所が変わるたびに雰囲気も変わる
山中の家と夜の森では怖さが、諏訪の裁きではハラハラする緊張が、追いはぎとの取り引きではおかしみが描かれています。場所ごとに雰囲気が変わるので、表を見ながら読み返すと、物語の組み立てがよくわかります。ドラマ化や朗読で印象に残った場面が、全体のどこにあたるのかを確かめるのにも役立ちます。
人物の見どころ
恐れを知らない回竜
回竜は、侍の心を持ったまま僧になった人物として描かれています。危険な場所にも平気で泊まり、化け物の頭を「みやげ」と笑う姿には、怖い話なのにどこかおかしみがあります。
自分の過去を語る木こり
木こりは回竜に、自分はもとは大名に仕えていたが、酒と女に溺れて家を滅ぼし、多くの人を死なせた、と語ります。そして、償いのために不運な人を助けている、とも話します。回竜は、その話を聞いて経を読むことを約束します。この「よい話」が、あとで裏返る構成になっています。
年老いた役人の落ち着き
ほかの役人たちが回竜を罪人と決めつけるなか、何も言わずに聞いていた老役人だけが、まず頭をよく調べよう、と言い出します。証拠を確かめる人物がいることで、物語は救われる方向へ進みます。
ドラマや朗読と一緒に楽しむ読み方
ここからは、原文の内容をもとにした、この記事の提案です。
英語原文と翻訳を並べて読む
Project Gutenbergでは、『Kwaidan』の英語原文を読むことができます。翻訳と並べて読むと、「miyagé(みやげ)」や「koromo(衣)」など、ハーンが日本語をそのまま使っている言葉にも気づけます。ハーンが日本の言葉や習慣をどう英語の読者に伝えようとしたのかを、注とあわせて考えてみるのも面白いでしょう。
場面ごとにメモを取る
木こりの家、夜の森、諏訪の裁き、追いはぎとの取り引き、と場面が大きく移り変わる話です。場面ごとに短くメモを取ると、ドラマや朗読で見聞きしたときにも流れを追いやすくなります。
怖さとおかしさの両方を味わう
頭が飛び回る怖い場面のあとに、頭を「みやげ」にする回竜の笑いが続きます。怖さだけでなく、ユーモアの部分にも注目すると、この話の味わいが深まります。
ほかの八雲作品と読み比べる
『怪談』には、「耳なし芳一」や「雪女」など、ほかにも有名な話が収められています。同じ本の中で、怖さの描き方がどう違うかを比べてみるのもおすすめです。
小泉八雲「ろくろ首」のよくある質問
この話のろくろ首は首が伸びる?
原文では、首は伸びず、頭が体から離れて飛び回ります。Project Gutenberg版の注では、ふつうのろくろ首は首が長く伸びても体とつながったままの妖怪と考えられている、と説明されています。
回竜はどうやってろくろ首に勝った?
回竜は、『捜神記』の記述を思い出して主人の体を外へ移し、襲ってきた頭を若木で打ち払いました。主人の頭は回竜の袖にかみついたまま息絶えます。
物語の舞台はどこ?
回竜がろくろ首に出会うのは甲斐の国の山中です。Project Gutenberg版の注では、甲斐は現在の山梨県とされています。その後、回竜は信濃の諏訪へ向かいます。
回竜の本当の名前は?
回竜は、僧になる前は九州の侍、磯貝平太左衛門武連でした。諏訪の裁きの場でその名を明かすと、人々は回竜をたたえてもてなします。
小泉八雲「ろくろ首」を原文で味わおう
小泉八雲の「ろくろ首」は、首が伸びるのではなく、頭が体から離れて飛び回る話です。侍から僧になった回竜が、本の知恵と強い心でろくろ首に立ち向かい、頭を「みやげ」と笑いながら旅を続ける姿には、怖さとおかしさが同居しています。
ドラマや朗読で八雲作品にふれたら、ぜひ原文や翻訳でも「ろくろ首」を読んでみてください。